怒る・罰するを使わなくてもよい方法
パート1では怒る・罰することはマイナス面が多く、必要がないということをお伝えしました。
では、『怒らないでどう教えるの?』という疑問が出てきますよね。
私が罰を使う代わりに実践している考え方や方法は以下の5つです。
・環境を変える
・正しい行動を認める
・別の行動を教える
・無視をする
・行動を止める
実例を挙げながら一つずつ説明しますね。
環境を作る
生きているうえで、その行動や思考は、環境が大きく影響します。
人も所属する環境に大きく影響を受けますよね。
ということは、相手の行動を変えようとする前に、まずは環境を変えるといいでしょう。
例えば、『テーブルの上の物を盗み食いする』ことに対して、
「ノー!」で止めさせようとする前に、盗み食いされてしまう環境を見直していきます。
それだけで、「盗み食いがなくなって、犬を怒るストレスもなくなった。」という場合もあります。
『設置したトイレトレーの場所ではなかなか成功しない…』というケース、
「犬が室内で良く失敗する場所にトイレトレーを移動しただけで全く失敗しなくなった。」というのも環境を変えて成功を作り出した良い例です。
そして、人にとっても犬にとっても一番影響の大きいい環境要因となるのが ❝人❞ です。
家族の中でも接する人によって見事に犬の態度が変わりませんか?
これも人が環境であることを表わしています。
子供が親を選べないのと同じように犬も飼い主を選べません。
子供や犬を変えようとする前に、「親や飼い主の言動が問題行動の原因になっていないか?」と考えて改善していくことが、一番効果的です。
正しい行動を認める
人間関係を維持し、相手にわかりやすく伝えるためには、
ポジティブフィードバックとネガティブフィードバックを8:2の割合で伝えるといいのだそうです(ヴィランティ『国際エグゼクティブコーチが教える人、組織が劇的に変わるポジティブフィードバック』)。
皆様は日々、相手に対してポジティブとネガティブをどれくらいの割合で伝えているでしょうか???
犬に伝えるのも同じで、毎日の付き合いの中でポジティブなフィードバックを基本にすることが大切。
また問題行動を変容する際にも大切な考え方です。
問題行動に直面していると、『8も認める部分はないよ~』と思われるかもしれませんが、
犬がいつも問題行動をしているわけではありませんよね?
いつも興奮しているわけではないし、何時も吠えているわけでもない。
いつも踏ん張って自己主張しているわけではないし、いつも排泄を失敗しているわけではない。
問題行動をしていない多くの時間は、Goodの行動をしているのですが、『当たり前』として意識していないだけ。
一方で、たまに起きるネガティブな部分は目立つのでどうしても気になってしまいます。
こうして、ついついネガティブな所に意識が引っ張られてしまいますので、『当たり前』にできている部分を意識的に見ていく必要があります。
『当たり前』や『普通』の状態を強化して増やしてあげることで、ネガティブな行動の頻度は減っていきます。
別の行動を教える
問題となる行動を抑える・削るのではなく、『別の行動に置き換える』ことを考えていきます(分化強化)。
例えば、『人に対する飛びつき』。
犬が飛びついてくるのを「ノー!」で叱って抑えこむということを、人間同士の関係に置き換えて考えてみると、
「『あなたに会えて嬉しい!』とあいさつするために近づいたら、めちゃくちゃキレれられた…」という状況です。
もし、自分にこんなことがあったら人間不信に陥りそうです…
このように、飛びつきを否定することに一生懸命になると、
せっかくのポジティブな感情面も否定しまうことになりますので、
行動を抑えるのではなく、その表現方法を別の行動で示すように教えてあげます(例えば『座る』など)。
同じように、
『吠える』のを「ノー!」で注意して抑えるのではなく、
『吠えていいよ!と指示を出したときに吠える』と教えることで、人が指示しないときは吠えなくなっていった例もありました。
他にも、
『拾い食い』に対して、
「ダメ!」といいながら、口の中から物を取り出していたら、口から取り出そうとするよりも早く飲み込むことを覚えたり、取り出そうとするとうなって怒るようになってしまう場合もあります。
このように、問題となっている行動を抑えこもうとすると、別の問題行動として出現して、ますます厄介になっていく可能性があるんですね。
このケースには、歩いているときにアイコンタクトをするという行動を教えて、拾い食いしそうな場所でも応用していくことで、拾い食いをする頻度を減らしていきました。
また、口におもちゃや大きな枝を咥えていると、拾い食いもせずにもくもくと歩く言う事なので、咥えながら歩くことも有効です。
また、『アウト』の指示で咥えているものを口から出すことを教えていくと、拾い食いをしても飲み込む心配がなくなったので、人も余裕をもって付き合えるようになり、お互いの関係性も改善していきました。
無視をする
これまでみてきた方法は、環境を変えたり、別の方法を教えたりという事前対応の方法です。
では、「問題行動が出ている、まさにそのときはどう対処したらいいの?」でしょうか。
今まさに起きている問題行動には、❝反応しない❞という手段を使います。
人も犬も群れの中で生きる社会的動物です。群れの他のメンバーの反応に影響を受けて生きています。
SNSで「いいね」やフォロワーが増えていけば、モチベーションが上がりますよね。反対に、投稿しても全く無反応な状態が続いたら投稿しなくなるでしょう。
これを犬の問題行動対応に当てはめていきます。
例えば、
『要求して吠えてくる犬』の場合。
付き合ううえで困る要求には徹底して反応しないようにします。
声をかけることはもちろん、目も合わせないように。
要求した結果、何も起きなければいつまでもその行動は続きません。
なお、『反応しない・無視をする』だけではなく、『別の行動を教える(分化強化)』と合わせ技で実施すると、変化が早く進みます。
『ケージに入れると鳴き続けるのでケージに入れられない』という犬がいました。
鳴くということに対しては無視をして付き合わないようにしますが、一方でケージにいる時にはコングにトリーツを詰めたおもちゃを入れて、ケージ内でおもちゃで遊ぶという行動を加えます。
すると、徐々にケージ内での吠えも減っていき、今ではおもちゃなしでも落ち着いて待つことができるようになっています。
行動を止める
その起きている行動を一旦止めるということも有効です。
『散歩中に興奮して引っ張る』場合、
犬にしてみると、引っ張って進めたということがプラスに働いて、ますます引っ張るようになります。
したがって、引っ張った時は立ち止まって引っ張る行動を止めなくてはいけません。
ここで注意したいのは、引っ張る犬の感情を抑え込むのではありません。
我々がコントロールできるのは、行動と思考だけ。感情や生理現象はコントロールできません。
「何で引っ張るの!」と怒っても意味がなく、むしろ反発を呼びます。
ですから、引っ張った時に淡々と行動を止めるだけ。
そしてリードが緩んだら歩くことを繰り返していきます。
『散歩中にとにかく引っ張って、倒されて引きずられてしまう』という飼い主が、この方法を繰り返したところ…
初めは、すぐに引っ張るので10mもまともに歩けなかったそうです。
飼い主を引きずることを学習していたので、止まるときは電柱にしがみついて引きずられないようにしたこともあったのだとか。
それでも続けていくと、今はリードも緩んだリラックス散歩ができるようになっています。
まとめ
5つの方法をお伝えしてきましたが、この順序が大切です。
❝行動を止める❞方法を多用すると、『問題行動を抑える』という気持ちが強くなっていき、問題の原因を相手においてしまいます。
繰り返しますが、行動を変えるのに一番効果的なのは、環境を変えること。
つまりは、環境となる自分を変えることからスタートしましょう!
『俺が状況を作るのだ。』(フランス皇帝 ナポレオン・ボナパルト)
コメント