「ペットショップで子犬と目が合って、かわいくて運命を感じたので買っちゃいました!」
よくこんな話を聞くが、AC JAPANのCMでは、
このひとめぼれ行為は『迷惑です』と強めの警告を発している。
確かに、この行為は危険性が高いので、「なぜなのか?」を解説してみたい。
今から子犬を迎え入れようと考えている方、どこから迎え入れようかなと考えている方に読んでいただきたい内容です。
氏か育ちか
人が形成されていく上で『氏が大切か?育ちが大切か?』ということについては、長い間議論されてきています。
時には『氏ですべてが決まる』とか、『教育で何とでもなる』という極端な考え方のもといろいろな実験や研究がなされてきましたが、
そもそも成長はこんな二言論的思考で答えを出せるものではなく、性格形成には氏も育ちも相互に影響しているというのが答えです。
ただし、これまで20年以上にわたって犬の成長を見てきて言えるのは、
『犬は人間以上に氏の影響が大きい。』
ということ。
人は体の成熟に約20年、そして精神的な成長はその後に出会う人や体験に影響を受けるのでもっともっとかかるでしょう。
しかし犬は、体の成熟は2歳くらいで、精神的なものも含めるとせいぜい3年くらいで成長していきます。
人間に比べると10倍速く圧倒的なスピードで成長していくことになり、
逆に言うと、周りの環境が、性格や行動形成に与えることができる影響は人間の10分の1程度しかないということになりますよね。
野生のオオカミの群れの形成や繁殖を見ていると、群れの中で繁殖できるのは一番強いリーダーのオオカミだけ。
群れの維持や繁栄のためには、教育よりもまずは強いものの遺伝子が重要であるということを表わしているのがわかります。
遺伝として影響するもの
では、遺伝として影響するものは何でしょうか?
犬にはさまざまな犬種があるように、身体的な特徴の大きさや見た目、毛の色や長さなどは遺伝によって決まります。
私が関係してきた犬の世界では、ラブラドールレトリーバーの繁殖を行ってきましたが、小さめの個体を繁殖犬に選ぶことで、一般的なラブラドールよりも一回り小さい個体が多くなっていきました。
そして、身体的特徴の一つとして遺伝する疾患もあります。
例えば、セントバーナード、バーニーズマウンテンドック、ジャーマンシェパードやレトリーバー種に多い股間節形成不全は、典型的な遺伝的疾患の一つです。
犬を売る側は、その原因を飼い主の飼い方のせいにして、「太らせすぎ」とか「ビタミンCが不足している」、「低たんぱく食の方がいい」なんていうとんでもない情報を流している方もいますが、
交配の時にキャリアを持つ犬を繁殖犬から除いていけば、この病気は避けられる可能性が高くなることが30年以上も前に証明されています。
また、身体的特性の他にも、父犬と母犬の気質も確実に遺伝します。
10年間、交配の計画を立てるなどして犬の繁殖に携わってきましたが、
落ち着きの高い親から産まれた子供たちは、やはり落ち着いている傾向が強くなります。
産まれてくる子供が、ポジティブタイプ(外向的)かネガティブタイプ(内向的)なのかも親を見ているとある程度予想をつけることができます。
犬を迎え入れるうえで見た目や血統も大切かもしれませんが、
『将来犬とどんな暮らしをしたいのか?』という目的を考えた時に、
見た目以上に身体的な特徴や気質を考慮していくことが大切ではないでしょうか?
ペットショップではかわいく見えたのに、いざ迎え入れたら「こんなはずじゃなかった…」なんてことになりかねません。
『見た目で人を選んで失敗したぁ…』
これはペット選びでも同じことです。
育ちの影響
もちろん、遺伝ですべてが決まるわけではなく❝育ち❞も大切です。
お腹の中にいる時からすでに学習が始まっていることは人の幼児研究でも明らかになっていますが、これは犬でも同じことが言えます。
また、産まれてから母犬の母性行動を十分に受けた犬は、自分が母犬になるときも母性行動をとりやすくなるという研究結果も示されており、産まれた直後の感覚器も十分に発達していないときでも、子犬は学習していることがわかります。
そして、犬の性格形成において最も影響が大きいのが社会化期です(生後3週齢~12週齢)。
犬は、犬社会と人間社会という二つの社会でうまく協調していく必要のある動物ですが、
社会化期は、この二つの社会を学ぶのに最適な時期です。
したがって、この時期に母犬や兄弟犬と十分に関わりをもたせて、犬同士のコミュニケーションを学ぶこと。加えて、人に触れてもらうことで、人という違う種族も受け入れていくことができるようになります。
逆に言えば、この時期に犬と十分に関わりをもてなかったりすると、犬同士うまくコミュニケーションが取れなくなったり、人との関わりがもてないと人に対して警戒を示すようになってしまいます。
お店に陳列されている犬は、どんな環境で生まれてきて、親の養育が十分にあったのかどうか、兄弟犬と十分に関わりが持てていたかどうかがわかりません。
また、お店で展示販売されるのが生後8週齢以降ということは、つまり社会化期として一番大切な時期をお店の限られたケースの中で過ごしてしまう可能性もあるわけです。
まとめ
上記の情報から、
「ペットショップで目が合って運命を感じて…」というだけで犬を迎え入れることがいかに危険なのかがご理解いただけると思います。
『見た目が可愛いから』ではなく、また『血統書があるから大丈夫』ではなく、父犬と母犬の身体的な特徴や気質的な特徴をきちんと教えてくれるところからから子犬を迎え入れるようにしてください。
『情報の目的は知識を得ることではない。正しい行動を起こすためのものだ。』
(ピーター・ドラッカー 経営学者)
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