心理学者のアドラー(オーストリア精神科医 アルフレッド・アドラー)は、育児や教育についての目標を「自立して、社会と調和して暮らせること」と掲げています。
いきなり固く入りましたが(汗)、
『自立と調和』は、人でも動物でも『育てる』上での共通目標ではないでしょうか。
「ペットとして迎え入れられる犬が自立を目標にする?」と違和感かもしれませんが、ペットであろうとも自立した個を目指して育てることで、人と調和して暮らせるようになっていくんです。
例えば、精神的に自立せずにわがままに育つと、いつまでも要求して吠えて訴えるようになる場合があります。また、依存的に育ってしまうと、一人でお留守番できなくて不安行動を引き起こすなど、自立できないことでさまざまな問題行動に発展していく可能性があります。
自立した状態を作る上で、再びアドラー心理学で言われている『横の関係』という考え方がとても参考になりますので、今回はアドラー心理学とともに話を進めていきましょう。
では、横の関係を説明する前に、まずは『上下関係』を見てみましょう。
上からの関係
犬を飼育する上で、「犬のボスになる必要がある」なんて聞いたり読んだりしたことはないでしょうか?
犬の祖先であるオオカミはボスが絶対の上下関係を作って群れを維持している(もちろんこの話も正しくありません)。だから、犬と付き合ううえでは人もボスになる必要があり「犬になめられないように、厳しく叱ることも必要だ!」という論理です。
この考え方は、今でも根強く残っていて、かくいう私も数年前までは信じていた一人です…(懺悔)
この考え方で接していると、
『犬はボスの言うことをきくものだ』、『言うことをきかせなきゃいけない』という気持ちに支配されますので、うまくいかないときにはカッとなって怒鳴って、したがってくれた時には褒美で釣ることで相手をコントロールしているという関係です。
私は同僚から、「それってヤクザの手口じゃない?」と指摘されて、やっと自分の作っている関係が間違っていることに気が付きました。
下からの関係
一方で、下から犬に向き合おうとする人も非常に多く見られます。
下からというのは、相手に対して依存的でこびへつらう感じ。
相手から求められること、依存関係にあることで自分を満たそうとします。
下からの関係を作る人が、よく犬に対してかける言葉が『可哀そう』。
この言葉は、犬に共感している言葉のようですが、自分の気持ちを押し付けているだけの同情です。
具体的には、『可哀そう』なので、犬から要求されればなんでも与えてしまう。
または、犬が苦手な様子を示したら、『可哀そう』なのでそれ以上はチャレンジさせない。
他にも、一度決めたルールも犬の要求によって簡単に崩れてしまい、曖昧になります。
こうして生活していくと、どんどんと犬がわがままになっていくのが想像できますよね…
自分で歩くよりも抱っこされたり乳母車に乗って運ばれている犬って結構見かけませんか??
海外のトレーナーが日本に来た時に、その光景を見て『あれは何だい!?飼い主は何をしているんだい!?』と驚いていました。
日本では犬に対して、人の幼児に接するように、下から向き合う人が多いのではないでしょうか。
犬に対して、上からと下からという姿勢の人たちに共通するのが、何か問題が起きた場合に『相手(犬)のせい』にするということ。
うまくいかないのは犬のせい、犬が太ったのは『欲しがるから』などなど…
そして、自分のことはさておき、問題解決の答えをすぐに求めてくるのも共通する傾向です。
横の関係
犬を育てるのがうまい人は、上下ではなく、個として対等な横の関係を築きます。
しっかりと愛情もかける一方で、共同生活を送っていく上でリーダーとしてルールを決めたり、時には相手のために成長を求めるコーチの役割も担います。
横の関係を作る人の特徴は、相手の目で見、相手の耳で聞き、相手の心で感じようとする共感姿勢です。
相手の立場になって考えると答えは相手の状況次第で様々に変わることになり、明確な答えはありません。
横の関係を築く人はそのことを理解していることで、「育てるのは本当に難しい…」という感想が多く聞けます。難しいからこそ、相手のせいではなく自分がどう変化できるのか?を真剣に考える姿勢があり、犬に合わせた柔軟性が磨かれていくんですね。
具体例でそれぞれの付き合い方を比較する
<ケース1 他の犬を見ると遊びたくて突進する>
上から:叱る/犬に興味を持つことを否定する(なんでそんなに興味を持つの!)
下から:犬の好きにさせる/遊ばせる(好きだからしょうがない…)
横から:相手に関心があることには共感しつつ、その場でお互いにとって望ましい行動を一緒に作る。
<ケース2 要求して吠えてくる>
上から:叱って吠える行動を抑え込む(問答無用)
下から:要求を聞く(やりたいんだから仕方ない)
横から:欲求の原因を考え、それを解消するための方法や吠える以外の行動を作るように支援する。もし、自己主張なのであれば、共同体を形成する上でルールを守る責任がある個として、自己主張には一貫して付き合わない。自立を求める。
まとめ
犬との関係づくりの基本について、アドラー心理学をもとにして説明してみました。
アドラー心理学は、人間関係や親子関係だけではなく、犬と人の関係にも応用が可能な考え方がたくさんあります。書籍もたくさん出ていますので、ぜひ参考にしてみてください。
最後にアドラーの言葉を紹介します。
「間違いを指摘せず、原因究明という吊るし上げもせず、『こんなやり方はどうかな?』と提案する。それこそが、相手を育てる有効な方法である。」
アルフレッド・アドラー
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