「ケージに一人で待たせると、不安でパニックになってしまうんです。どうしたらいいですか?」
先日、そんなお悩みをお持ちの飼い主さんからご相談を受けました。
お話を伺うと、パピーをケージに入れた途端に吠え続けたり、ケージを噛んだり、粗相をしてしまったりするようで、「ケージに入れるのがかわいそう…」と飼い主さんも精神的に疲弊している様子が伝わってきました(犬も疲れているでしょうね)。
事前トレーニングのススメ
こうした問題行動に対して、私が推奨したのは「事前トレーニング」。
多くの方が「問題が起きてから対処する」と考えがちですが、犬の問題行動の多くは、適切な準備と練習があれば未然に防ぐことができる、あるいは劇的に改善できるものばかりです。
具体的に、その飼い主さんにはこのようなトレーニングを提案しました。
まず、犬が落ち着いている時間帯を見計らってケージに入れます。
最初は飼い主さんの姿が見える場所で、ほんの数秒だけ待たせて、すぐにケージに戻って「褒める」。
これを何度も繰り返して、数秒の成功が積み重なったら、今度は徐々にケージから離れていきます。
「離れて」→「戻って」→「褒める」を繰り返していくことで、『飼い主がケージから離れてもすぐに戻ってきてくれる』という安心感を基に、『ケージで待っていれば褒めてもらえる!』というプラスイメージに置き換わっていきました。
結局、初回のトレーニングはほんの5分程度で、飼い主さんが姿の見えない場所に移動しても数分は落ち着いて待てている状態となりました。
飼い主さんも「信じられない!」と大変驚いていましたが、その一方で飼い主さんの口から漏れたのは「これをこれからも繰り返さなきゃならないんですか…?」という本音でした。
「素振り」が大切!
犬の問題行動の改善を求めてくる方のほとんどが、劇的な変化を望みます。
しかし、例えば野球に例えるなら、今まで打てなかった球を打つのに、急に打てるようになるでしょうか?
打てるようになるには、何百回、何千回とバットを振ってフォームを確認し、スイングスピードを上げていく素振りが必要です。
こういった事前の素振り練習なしに、バッターボックスに立ち続けても結果は目に見えているでしょう。
犬の世界の「ぶっつけ本番」
しかし、犬の世界では、この「ぶっつけ本番」をあまりにも多く目にします。
「お留守番をさせたら吠えっぱなしでした」
「知らない人が来ると飛びついてしまって」
「散歩中、他の犬に吠えまくって困っています」
こういった声を聞くたびに、私は「ああ、またぶっつけ本番で失敗して、犬に間違った学習させてしまったな…」と感じます。
これは、何の練習もせずにバッターボックスに立って、『打てない』と言っているような状態です(当たり前じゃ!)。
そして、こういった問題に対して、「まず、こういう準備をしましょう」「このような練習を積み重ねていきましょう」とアドバイスすると、「面倒くさい」「そんな時間はない」という反応が返ってくることも…。
『素振りはしたくないけど、打てるようになりたい』と言われているようでガッカリしてしまいます(犬を飼っちゃダメですよね)。
飼い主諸君! 犬との暮らしを成功させたいなら「素振り」をせよ!
犬の問題行動は、犬が悪いのではありません。
多くの場合、私たち飼い主が、犬に成功体験を積ませるための「練習」を怠っているだけなのです。
「犬を飼う」ということは、私たち人間が犬の習性を理解し、犬が社会で穏やかに暮らせるように導く責任があるということです。
もちろん、しっかりと「素振り」をして付き合っている飼い主の方もたくさんおります。
例えば、愛犬が「動物病院に行くのが苦手にならないように」という目的で、動物病院に行く必要がない日でも病院に行って先生に褒めてもらうという機会を作っているというお話をお聞きしました。
これは素晴らしい事前トレーニングですよね!
どの犬も動物病院には必ずお世話になります。
でも、動物病院に行くのはたいていは治療が必要な時だけ。
犬たちにしてみると、動物病院で治療をされることで嫌なイメージが強くなって、病院に行きたくなくなっていく可能性があります。
これに対して、「病院に行く回数を増やして褒めてもらう」という素振りを繰り返すことで、いざ病気になった時にも犬が落ち着いて診察を受けることができるでしょう。
『事前の1手は事後の100手に勝る』
野球選手がヒットを打つために地道な素振りを重ねるように、私たちも愛犬とのより良い関係を築くために、今、目の前の「素振り」に取り組むべきです。
一見地味で、気が遠くなるような作業に思えるかもしれません。
しかし、その「素振り」こそが、愛犬との素晴らしい未来を築くための確実な道。
『事前の1手は事後の100手に勝る』
『愛とは見返りを求めず時間と手間をかけること』
さあ、今日からあなたも、愛犬のために「素振り」を始めませんか?
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