「盲導犬」が感動をよぶ理由

盲導犬について

この仕事に携わって25年になりますが、引退する盲導犬とユーザーとの別れの場面には、いつも心を揺さぶられ、涙を抑えることができません。

今回は、なぜこれほどまでに感動するのか、安心と信頼という観点から考えてみました。

「安心」と「信頼」の違い

まず、「安心」と「信頼」は何が違う?について考えてみます。

安心は、ルールや規則によって管理された確実な世界の中に存在するもの

例えば、安心の関係というのは、三蔵法師が「孫悟空の頭に輪をつけている限りは自分を裏切ることがない」と確信している状態です。

組織でいえば、裏切れば直ちに罰が与えられることがはっきりした組織や失敗をしないようにがちがちにルールで縛られた組織には、信頼ではなく安心をベースに組織化されています。

一方、信頼は不確実な要素を含んでいますが、それでも相手を信じる気持ちと定義します

ルールという目に見えるものよりも、相手への愛や深い思いやりといった目に見えないものが、真の信頼関係を築くことに欠かせません。

三蔵法師が孫悟空と信頼関係で結ばれているなら、頭に輪っかをつける必要はないでしょう。

信頼関係のある組織は、わざわざ恐怖や罰則で人を縛らなくても自分についてきてくれると信じられる組織です。

ちなみにここまで読むと、『ルールを設けるのは悪い』と捉えられるかもしれませんが、決してそういっているわけではありません(極端にとらえないで!)。

目的やビジョンを達成する上で、何でもありではなく、チームとしての行動規範はきちんと作り、お互いに理解しておくべきなのは言うまでもありません。

犬と人との関係が感動を生む

こうして、安心と信頼を定義してみると、

ユーザーと盲導犬のお別れのシーンにいつも感動してしまうのは、そこに信頼のシーンを見るからと言えそうです。

盲導犬は、「目が不自由な視覚障がい者」と「言葉のしゃべれない犬」という、より不確実性が強い関係が、チームとなって一緒に歩くことで、心でつながる圧倒的な信頼関係を築く姿を見ることができます。

別れのシーンでは、そこに宿る深い愛を感じるからこそ、心に響くのでしょう。

もちろん、この感動は盲導犬に限らず、犬と暮らす人のほとんどが、犬との関係性で感じていることではないでしょうか。

犬は人と信頼を築くプロフェッショナルですね!(本当に犬はすごい)

『信頼』の生み出し方

では、なぜ犬は人と信頼関係を築くことができるのでしょうか?

どうしたら信頼関係は生まれるのでしょう?

ここまで書いてみてはっきりとわかることをまとめてみます。

・人間関係を罰則やルールでがちがちに縛ろうとしない

相手(子供、犬、チームメンバーなど)に対して罰を中心に付き合うことは自分の従わせようとするためのもの。自分の安心は作れるかもしれませんが、信頼にはつながらないでしょう。

・不確実性を受け入れること

「本当に1頭1頭違うんですね(驚)」

これは、2頭目のパピーウォーキングをしてくださった方のほとんどが口にする感想です。

人の数だけ違っていて当然。犬の数だけみんな違う。

頭ではわかっているけど、これを実感して、体現するのは本当に難しいことですよね。

「同じ」にしようとするのではなく、「違い」を受け入れて、個を尊重していく。

それぞれの強みを見ていくことが信頼関係につながります。

・自分をさらす

個を尊重して相手を思いやることは大切ですが、そのために自分を抑えるのは違います(実は私はこの傾向が強い…)。

自分を押し殺して相手に迎合しても、関係性は悪くならないでしょうが、本当に意味での信頼関係を築けているとは言えません(ドキッ)。

「信頼関係」とは自分をさらけて、お互いの強みも弱みも理解した上で、お互いを支援しあう関係性。

そう考えると、犬もどんどん自分の『心地よい』を要求して表現してきますよね。

・上機嫌でいる

では、自分をきちんとさらけるためには何が大切なのかというと、

セルフラブ(自分を尊重し、承認し、愛していること)です。

セルフラブが高い人は、周りの評価や比較の中で生きていないので、いつも安定して上機嫌です。

上機嫌でいるからこそ、相手も自分をさらけやすくなり、オープンマインドの関係性が築かれていきます。

まさに、犬は周りとの比較で生きてはおらず、いつも心がフローな状態で、人と付き合うときにはいつも上機嫌ですよね。

不確実だからこそ感動を生む

盲導犬の別れのシーンに見る感動を安心と信頼という観点から考えてみましたが、世の中に生み出される『感動』も同じで、❝不確実な関係の中にできる信頼から生みだされた結果に人は感動する❞というのはもはや原則と言えそうです。

感動には『期待値を超えること』が必要ですが、確実で予定調和な世界では、期待値を超えることはなく、感動は生まれにくいでしょう。

歳をとるとともに感動しにくくなるのは(逆に涙腺がゆるくなる人もいるけど)、不確実さや変化、挑戦を面倒くさがるようになることが原因の一つではないでしょうか。

不確実な要素があるからこそ、そこに感動が生まれる

ということで、今日も不確実を楽しんでいきましょう!

参考文献『安心社会から信頼社会へ』(山岸俊男 著)

コメント

タイトルとURLをコピーしました