北海道盲導犬協会では、子犬を委託した後、兄弟ごとに講習会を行いますので、
定期的に兄弟や親子が顔を合わせることになります。
そこでよくある質問が、
「親子や兄弟ってわかっているんでしょうか?」というもの。
オオカミの家族愛
犬の祖先であるオオカミは、夫婦と親子関係で群れを構成します。
群れの仲間意識はとても強く、
子育てに関しては、親はもちろん群れのみんなで子育てを手伝うといった協力関係が築かれ、群れのメンバーを守るために自己犠牲もいとわないといった行動を示します。
犬は親子、兄弟を認識している!
講習会で犬の行動を観察していると、
「お互いに親子や兄弟って認識している」と感じる時もあります。
例えば、久しぶりに会った親子がフリーランをしていて、子供たちが興奮してはめを外したのでしょう。その子たちに親が一喝すると、子供達はお腹を見せて「参りました~」のポーズ!
これを見て、「生後50日齢までに親と築いたコミュニケーションを数か月経っても覚えているんだなぁ」と感じました。
また、母犬から1頭しか産まれなかったパピーを、そのまま母犬を飼育しているボランティアさんに委託をお願いして、親子で飼育していただいたこともありました。
そのパピーは、ずっと一緒に暮らしていき、6歳になった時に母犬が亡くなりましたが、
独りになってから急に家具を壊すようになったり、
吠えの要求も強くなり、お留守番も難しくなったということでした。
産まれてからずっとあった母犬の存在が大きかったのでしょうか…。
実際に、❝母犬は自分の子供の声を認識している❞という実験結果が2024年に発表されました。
産まれてきた子犬の声を調べてみたところ、兄弟ごとに音声や音色に特徴があり、母犬もそれを識別していることが明らかになっています。
兄弟ごとに共通の音を出しているということは、兄弟間でも音で同腹を認識している可能性もありますよね。
犬は親子、兄弟をほんとうに認識している?
上記に認識していると感じる事例を挙げてみましたが、
ほとんどの親子や兄弟は、お互いに意識しているのはある一定の月齢まで。
講習会で見ていても3~4ヶ月齢位までは、
久しぶりに会ったお母さんのお乳を吸いに行ったりしますが、
それ以降になると、❝親子や兄弟だから特別❞という行動は示さなくなっていき、
『本当にわかっているのかなぁ…?』と疑問に思う行動をとります。
結論、
犬は音声やにおいなどで「以前から知っているやつだ」という認識は持つでしょうが、人間と同じように離れて暮らしていても、親子愛や兄弟愛を維持するということはありません。
まとめ
これまでの事例を整理すると、
犬が示す愛情は❝誰と群れを作っているのか❞が大切なのでしょう。
犬はオオカミのように家族で群れを作って、強い家族愛を示すことはありませんが、❝異種間(人間との間で)で群れを形成できる❞という特異な能力が備わっています。
これはオオカミには難しく、この能力こそが犬が繁栄している理由の一つ。
盲導犬の育成に携わっているとこの能力のすごさがよくわかります。
子犬時代は母犬に対して愛情を示しますが、
生後50日齢以降は親兄弟と別れてパピーウォーカーの下で生活します。
その後、1歳になって訓練に入ると担当の訓練士と、
盲導犬にデビューすると盲導犬ユーザーと、
そして引退をすると老犬の飼育ボランティアと・・・・
ライフステージによって群れを形成する相手が変わりますが、
ものの見事に切り替えて、その時々のパートナーと愛情形成をしていくのがわかります。
『離れていても覚えていてほしい!』という期待は砕かれますが、
たぶん『知っている奴』くらいには覚えてくれていると思いますよ(笑)
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